土壌線虫は難防除害虫にあげられ、農作物の収量減少や品質低下といった被害を及ぼす非常にやっかいな害虫です。線虫の加害はほとんど地下部であり、ネコブの着生など見えないところで進行します。植物に寄生する線虫で農業上問題となる土壌線虫は、ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ、シストセンチュウの3グループです。
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線虫と薬剤が接触することで線虫の活動を阻害し、殺線虫効果を発揮します。
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土性の違いや処理後の土壌水分の変動による影響が少なく、安定した効果を示します。
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揮発性がなくガス抜き作業が不要のため、 処理直後から播種や定植が可能です。
一般名 | ホスチアゼート |
化学名 (IUPAC) |
(RS)-S-sec-ブチル=O-エチル=2-オキソ-1,3-チアゾリジン-3-イルホスホノチオアート |
構造式 | |
製剤 | 1.5%粒剤 |
物理的化学性状 | 類白色細粒 |
IRACグループ | 1B (有機リン系) |
人畜毒性:普通物*(製剤) | 急性経口毒性 | LD50 > 5000mg /kg(ラット♂) LD50 > 3741mg /kg(ラット♀) |
急性経皮毒性 | LD50 > 2000mg /kg(ラット♂、♀) | |
皮膚腐食性/刺激性 | データなし(ホスチアゼートは弱い刺激性あり(ウサギ)) | |
眼刺激性 | データなし(ホスチアゼートは刺激性あり(ウサギ)) | |
皮膚感作性 | データなし(ホスチアゼート原体は皮膚感作性あり(モルモット)) | |
水産動植物への影響(製剤) | コイ | LC50 > 1000mg /ℓ(96時間) |
オオミジンコ | EC50 > 22.3mg /ℓ(48時間) |
*毒劇物に該当しないものを指していう通称
ネマトリンエース粒剤は「殺線虫効果」を持つ殺線虫剤です。
有効成分である「ホスチアゼート」が各種線虫に接触することで線虫の神経系に作用するため線虫の各生育ステージに影響を与えることができます。ネコブセンチュウの場合は、圃場では特に根部侵入ステージである2期幼虫により高い効果を発揮します。
本剤20kg/10aを土壌中に均一に混和した場合、有効成分ホスチアゼートの濃度は2ppm相当*となり、土壌半減期は20~30日程度あることから、理論的には土壌中の線虫に対して殺線虫効果が期待できます。さらに、本剤は適度な残効性を示すため線虫が作物の根部に侵入することも阻止します。
運動阻害効果と根への侵入阻止効果
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ホスチアゼート2ppmの薬液にサツマイモネコブセンチュウを浸漬したところ、処理2時間後には苦悶状態の個体が散見され、約24時間後には大半の個体に対して運動阻害効果を示しました。
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本剤の実用濃度(10~30㎏/10aでホスチアゼート1~3ppm相当)において高い運動阻害効果が認められました。
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本剤の実用濃度(10~30kg/10aでホスチアゼート1~3ppm相当)より低濃度となる0.5ppmでも高い根部侵入阻止効果が認められました。
殺線虫効果
ホスチアゼート2.50ppm、1.25ppm、0.625ppmの薬液にネコブセンチュウを浸漬したところ、7日後には線虫は死亡せずに運動阻害状態となりました。実用濃度の半分にあたる1.25ppmにおいて、殺線虫率は14日後に約56%、21日後には約90%を示しました。実用濃度内である2.50ppmでは21日後に100%の殺線虫活性を示しました。
各種線虫に対する効果について
線虫への安定した効果について
1処理から植付けまでの期間による効果の変動
ネマトリンエース粒剤は、処理後出来るだけ早く定植(播種)することが長期間安定した効果を得る上で望ましいと考えられます。しかし、処理直後から処理2週間後の期間であれば防除効果に問題がないことが確認されています。
2圃場におけるネコブセンチュウに対する残効性について
ネマトリンエース粒剤は、生育期間中長期にわたり、ネコブの着生を防ぎます。作物の生育にとって重要な初期段階に殺線虫効果及び根部侵入阻止効果を発揮することにより、60~80日の長期にわたる残効性が期待できます。
土質の違いによる効果への影響
1土壌の砂含有量の違いによる
防除効果比較
<試験結果>
各土壌条件下でも20kg/10a処理にて高い防除効果を示しました。
(きゅうりの登録内容としては、10a当りの使用量は15~20kgです。)
※無処理区では砂の割合があがるほどネコブ着生程度が上昇する傾向であった。
2土壌の地域性の違いによる防除効果比較
<試験結果>
各土壌条件下でも10~20kg/10a処理にて高い防除効果を示しました。
(かんしょの登録内容としては、全面土壌混和でご使用いただく場合は10a当りの使用量は10~30kgです。)
地上部害虫への効果
ネマトリンエース粒剤は浸透移行性が高く、土壌に処理された有効成分は根部より吸収され植物全体に移行し、ハダニ、アブラムシ類、ミナミキイロアザミウマなどの地上部吸汁害虫にも副次的に効果を発揮します。そのため、線虫防除として本剤を土壌全面混和処理を行った場合、初期の害虫密度の抑制が期待でき、その後の害虫防除につなげることができます。
[登録のある作物] ばれいしょのアブラムシ類/なすのハダニ類、ミナミキイロアザミウマ、オンシツコナジラミ/ いちごのハダニ類/らっきょうのネダニ/きくのナミハダニ
*処理方法や処理薬量などの詳細は最新の登録内容をご確認ください。
1ハダニに対する効果
2アブラムシ類に対する効果
その他のお願い
- 薬剤処理から植え付けまでの期間は出来るだけ短くしてください。薬剤処理時期は定植または播種前です。育成期には使用できません。(いちじくを除く)
- 耕種的防除法などと組み合わせることにより、更に安定したネマトリンエース粒剤の効果が期待できます。また前作での被害残渣物を取り除いておくことや、冬期の間に繰り返し耕起こしておくことも線虫密度を下げる上で有効です。
くん蒸剤との体系防除について
線虫が防除しにくく、線虫密度が異常に高い圃場や、残効性が劣る圃場、作期が長い作物において、くん蒸剤とネマトリンエース粒剤の体系防除をおすすめします。
くん蒸剤には定植前の線虫密度を下げる高い効果があります。そして、ネマトリンエース粒剤には殺線虫効果に加え、生育中も有効成分が土壌中にあるため生育期間中の根部への線虫の寄生も防ぎます。
このように、くん蒸剤とネマトリンエース粒剤は線虫防除機構が異なるため、この2剤の体系処理は線虫防除において有効に働きます。
1ネマトリンエース粒剤とくん蒸剤との線虫体系防除試験
2ネマトリンエース粒剤とくん蒸剤の併用による対線虫残効性