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収穫量増加が期待できる「トマトトーン」のご紹介
皆さんは、農薬の役割をご存知ですか?一般的には病害虫の駆除をイメージされやすいですが、実は農薬には、雑草の防除、成長調整、病害虫防除に利用する天敵など、多様な種類があります。
今回は、この中の「成長調整」に焦点を当て、トマトの着果促進を目的に利用できる「石原トマトトーン(以下トマトトーン)」という植物成長調整剤について解説します。
トマトが大きくなる仕組み
単為結果とは
「単為結果(たんいけっか)」とは、受精が行われなくても果実が形成される現象です。
トマトはこの「単為結果」に分類される植物で、遠縁種の花粉による受粉、低温、植物ホルモンによる処理などの刺激によって果実が形成される、「他動的単為結果」という特性を持っています。
通常、植物の果実は、受粉すると種子の周辺からオーキシンという植物ホルモンを分泌して果実が大きくなります。しかし、トマトは必ずしも受粉するわけではないため、種子からオーキシンが分泌されず果実が大きくならない場合があるのです。
露地栽培だと蜂がきて受粉してくれるけど、ビニールハウスだと蜂がいませんよね。冬とか真夏は飛んでいないし・・・
受粉されないと、果実は大きくならない。
そこで、「トマトトーン」という農薬が役に立つんだよ。
なぜ「トマトトーン」が必要なの?
植物成長調整剤とは
「植物成長調整剤」とは、植物の成長や発育をコントロールし、品質や収穫量を上げたり、不良条件下での収穫量を安定させたりするための薬剤です。
「トマトトーン」は、トマトやナスに有効な植物成長調整剤で、外部から合成オーキシンを与えることで、着果・果実肥大を促進する作用があります。低温、日照不足などの自然結実しにくい条件下でも着実に着果させ、初期収穫量の増加が期待できます。
低温、日照不足などの自然結実しにくい条件下でも「トマトトーン」は収量向上の役に立つんだよ。それでは、「トマトトーン」を処理することでトマトが着果促進するメカニズムを見ていこう。
「トマトトーン」による着果促進のメカニズム
「トマトトーン」処理を行うと、種子周辺から分泌される天然(内生)のオーキシンの代わりに、外部から合成オーキシンを与え、植物が着果、果実肥大します。
このようにトマトトーンを利用する着果は疑似受粉というんだ。
疑似受粉の場合も着果肥大時に種子は形成されるけれど、発芽することのできない種子になるんだよ。
次に、トマトトーンの上手な使い方を説明するね。
「トマトトーン」の使い方
(1)まずは原液を希釈
原液の「トマトトーン」をトマトやミニトマトに使用する場合、気温が20℃以上の時は100倍に、20℃以下の時は50倍に希釈してください。
※トマト・ミニトマト以外では希釈倍数や使用方法が異なりますので、ラベルをよく読んでから使用してください。
(2)「トマトトーン」を散布する
「トマトトーン」を使用する際は、花を手で持ち、スプレーなどに入れた希釈液を花や花房に直接吹き付けます。散布量は、花または花房から薬液が滴り落ちない程度が目安です。
- ~使用時期~
- トマトの場合:
「開花前3日~開花後3日位(1花房で3~5花位開花した時期)」が使用時期です。本剤を1花房につき1回散布してください。 - ミニトマトの場合:
「開花前3日~開花後3日位」が使用時期です。本剤を1花につき1回散布してください。
(3)散布時の注意点
ここで注意!「生長点」には液がかからないようにしよう。 覚えておいてね。
「生長点」って、根や茎の先端部分のことですよね!
かかるとどうなってしまうんですか?
トマトが成長できず、様々な症状が出てしまうんだ。 中には奇形になるケースもあるんだよ…
「トマトトーン」を使用する際は、花や花房にのみかかるよう、ていねいに散布してください。
生長点や葉にかかると、芽が分化してわき芽が出る、生育が抑制されて芽が黄色くなる(黄化)、葉がロール状になる(巻葉)などの症状が出ます。
特に先端にかかると奇形になる可能性があるため注意が必要です。
「わき芽」とは、葉や茎の付け根から出てくる芽のこと。
放置すると主枝の栄養分まで奪い、美味しいトマトが収穫できなくなってしまうんだ。
(4)即効!「トマトトーン」の効果
散布完了!成長が楽しみだなー!
お疲れ様!「トマトトーン」は2~3日で違いが見えてくるよ。 すぐに効果を実感できるのは嬉しいよね!
「トマトトーン」は、噴霧処理後2~3日経つと、果梗が太くなり、幼果のつやが増して発育が非常に早くなるため、すぐに効果を実感できます。
効果が出ない場合は、下記のように適切な処理ができていない可能性があります。
- ①処理時期が誤っている
- 処理時期が早すぎても遅すぎても、十分な効果は得られません。適期以外では天然(内生)のオーキシン濃度が著しく低く、着果しないケースがありますので、適用表に記載されている処理時期を守りましょう。
- ②高温ストレス
- 過度な高温により、植物にストレスがかかりすぎた場合も、着果能が低下し生理的に着果しない場合があります。
- ③極端な栄養生長(※)に偏っている
- 多肥条件などにより極端な栄養生長に偏っている場合、着果しにくくなります。水分ストレス(水分の欠乏状態)などを与え栄養生長を抑え、着果しやすい状態にコントロールした後、「トマトトーン」を処理しましょう。
肥料が多すぎると、植物は栄養生長ばかりを優先してしまうよ。
栄養生長と生殖生長のバランスがとても大事なんだ。
「トマトトーン」による空洞果を防ぐために
空洞果とは
ホルモン処理で着果促進を行った場合、空洞果になることもあります。
「空洞果」とは、果実の皮の部分が過剰に発育したために、ゼリー状の部分(種子を保護している組織)が果実を満たしきれずに、ピーマンの様に空洞になってしまった果実を指します。
高温時のほか、ホルモン剤の二度がけや高濃度処理をした場合、開花当日など早い時期にホルモン処理を行った場合、日照不足や草勢(植物が成長する勢い)が強い場合に発生します。
うわぁ…せっかく頑張って育てたトマトが空洞果になってしまったら
悲しすぎます…どうすれば良いですか?
そうだね。空洞果を防ぐには、「トマトトーン」と「ジベレリン」を組み合わせて使うと効果的なんだ!
「ジベレリン」の活用
空洞果を防ぐには、「トマトトーン」に「ジベレリン」という植物成長調整剤を組み合わせることが有効です。(※完全には防ぐ事はできません)
「ジベレリン」は、主に種無しブドウの成長促進、果実肥大、落果防止などに利用されており、トマトの空洞果防止にも効果があります。開花時10ppmのジベレリンを処理することで空洞果の抑制につながります。
その他の対策としては、草勢が強くならないような水・肥料の管理に努めてください。また、特に着果条件が悪い場合は、マルハナバチの併用もご検討ください。花粉を利用する受粉となりますので果実内の種子が形成されゼリー部の充実が良くなり、結果的に空洞果の減少が期待できます。
まとめ
最後に、「トマトトーン」の特長をおさらいしよう。
【「トマトトーン」の特長】
- 植物ホルモン「オーキシン」の作用を利用した薬剤
- トマト、ナス等の着果、肥大、熟期を促進
- 初期収穫量の増加が期待できる
- 低温、日照不足などの条件下でも着実に着果させる
- 石ナス(実が固くつやのないナス)防止にも高い効果を発揮
【適用作物と使用方法(抜粋)】
作物名 | 使用目的 | 希釈倍数 | 使用時期 | 本剤の使用回数 | 使用方法 | 4-CPAを含む農薬の総使用回数 |
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トマト | 着果促進 果実の肥大促進 熟期の促進 |
低温時 (20℃以下) 50倍 |
開花前3日~開花後3日位(1花房で3~5花位開花した時期) | 1花房につき1回 | 散布 | 1花房につき1回 |
高温時 (20℃以上) 100倍 |
||||||
ミニトマト | 低温時 (20℃以下) 50倍 |
開花前3日~開花後3日位 | 1花につき1回 | 1花につき1回 | ||
高温時 (20℃以上) 100倍 |
いかがでしたか?「トマトトーン」を上手に活用して、充実した美味しいトマトを収穫しましょう!