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農作物に被害をもたらす「センチュウ」の生態とは

農作物に被害をもたらす「センチュウ」の生態とは

皆さんは、「センチュウ」のことをどれくらいご存じでしょうか?土壌センチュウは難防除害虫に挙げられ、農作物の収量低下や品質不良に膨大な被害を及ぼす非常にやっかいな害虫です。被害は主に地下部で加害・進行し、地上部の被害としては、病害とよく似た「しおれ」や「立ち枯れ」症状を呈することから、適正防除の徹底が出来ずに減収を招いているケースが多く見受けられます。

今回は、難防除害虫であるセンチュウについて詳しくご紹介します。

センチュウとは?

線虫(センチュウ)とは分類学上で言う「線形動物門」に属する動物類の総称を指します。

≪センチュウの特徴≫

サツマイモネコブセンチュウ2期幼虫
サツマイモネコブセンチュウ2期幼虫
  • 体は細長いひも状で、触手や付属肢を持ちません。一部のものは体表に剛毛を持ちます。基本的に無色透明で、体節構造はありません。
  • 雌雄異体で有性生殖により繁殖できます。単為生殖を行う種もあり、同一種内で系統により生殖が異なる場合もあります。
  • 土壌中に莫大な個体数がおり、地球上のバイオマスの15%を占めているともいわれています。

≪センチュウの生息場所≫

  • 有機物の分解物や細菌を餌にして自活的に生活をする自活性線虫と動物や植物を宿主として寄生生活をする寄生性線虫に分けられます。
    ➀自活性線虫
    山、野、川、海、南極、砂漠といったあらゆるところに存在します。
    ②寄生性線虫
    動物、植物(植物寄生性線虫)
    農作物にとって悪玉です!!

≪線虫の数≫

  • 線虫類は現在20,000種が確認されています。
  • 種の数は1億種以上と推定されます。
  • 個体数は動物界で最大でもっとも繁栄しています。

植物に寄生するセンチュウで農業上問題となる土壌センチュウは、ネコブセンチュウ、ネグサレセンチュウ、シストセンチュウの3グループです。主に、幼虫や卵及びシストの状態で土壌中に存在し、作物が植付けられるのを待って根に侵入します。このほか自活性センチュウは動物寄生性のセンチュウや菌類、細菌、腐敗有機物などを食べます。

表1. 植物に寄生するセンチュウ
地下部加害
(根部、塊茎)
内部寄生性 ネコブセンチュウ類 生存期間:0.5〜1.5年(定着性)
ネグサレセンチュウ類 生存期間:0.5〜5年(移動性)
半内部寄生性 シストセンチュウ類 生存期間:6〜10年(定着性)
ミカンセンチュウ他
外部寄生性 イシュクセンチュウ、ビンセンチュウ他
地上部加害
(茎、葉、芽)
内部寄生性 ナミクキセンチュウ、マツノザイセンチュウ他
外部寄生性 イネシンガレセンチュウ、イチゴメセンチュウ他

センチュウによる被害の発現

センチュウの加害はほとんどが地下部であり、根こぶの着生など見えないところで進行します。また、センチュウの加害によって土壌病害を併発する場合もあります。それによって、地上部では萎凋(いちょう)や種々の生育抑制症状が現れます。根菜類では品質低下など致命的な被害となる一方、地上部の果菜類や葉菜類でも、収量低下や品質低下など大きな被害となります。

センチュウによる被害の発現

ネコブセンチュウの生態と加害様式

ネコブセンチュウ類(Meloidogyne spp.)の中で農業上問題となる主要種はサツマイモネコブセンチュウ、キタネコブセンチュウ、アレナリアネコブセンチュウの3種です。多犯性で多くの作物に寄生し、ねこぶを形成します。根菜類では品質低下や減収の深刻な被害を招きます。

サツマイモネコブセンチュウ2期幼虫
サツマイモネコブセンチュウ2期幼虫
表2. ネコブセンチュウの被害が大きい作物
果菜類 トマト、なす、ピーマン、きゅうり、すいか、メロン、かぼちゃ、いちご
葉菜類 ほうれんそう
根菜類 にんじん、ごぼう
いも類 さつまいも、やまのいも、ばれいしょ
果樹類 いちじく、ぶどう、もも
花木類 シクラメン、カーネーション、ばら

≪ネコブセンチュウの生活環≫

加害様式のイメージ図
上図:加害様式のイメージ図
  1. ネコブセンチュウは卵内で1期幼虫となり1回脱皮して2期幼虫となります。
  2. 2期幼虫は野菜の根の先端部より侵入し根内に定着します。
  3. 幼虫が定着した部分の細胞の巨大化と周辺細胞の異常分裂によって”根こぶ”が形成されます。巨大化した細胞から養分を摂取して次第に肥大し、最終的に洋梨状の雌成虫となります(センチュウの養分貯蔵庫)。
  4. 幼虫侵入から雌成虫産卵開始までの期間は25~30日で線虫にとって良好な環境下では5日程度早まります。
    1頭の雌成虫はゼラチン状の卵のう内に数百個産卵します。
  5. 卵で越冬し、活動・繁殖の適温は25~35℃。休眠現象はなく、適温になれば冬でも活動、加害します。通常、年間4世代(周年栽培では4世代以上)です。

≪ネコブセンチュウの植物体への侵入≫

2期幼虫が根内に侵入し、加害します。

根の先端部とネコブセンチュウ2期幼虫が根内に侵入している様子
根の先端部とネコブセンチュウ2期幼虫が根内に侵入している様子

≪ネコブセンチュウによる被害(根菜類および果菜類)≫

かんしょ
さつまいも
だいこん
だいこん
~根菜類~
「さつまいも」は細根に数珠状のコブを形成、サメ肌状の症状が発生します。被害が大きくなると、亀裂を伴う、奇形、収量の減少、品質の低下などにつながります。
「だいこん」も細根に数珠状のコブを形成すると共に、重度の場合は主根の奇形を伴い、品質が低下します。
トマト
トマト
スイカ
スイカ
~果菜類~
寄宿植物の根にコブ(ゴール)を形成し、養水分を奪い生育を阻害します。
ネコブセンチュウによるコブは根こぶ病のコブよりも小さく、数珠くらいの大きさとなります。
果菜類では、収穫期間/収量の減少、土壌病害の併発が懸念されます。

ネグサレセンチュウの生態と加害様式

ネグサレセンチュウ類(Pratylenchus spp.)の中で農業上問題となる主要種はキタネグサレセンチュウ、ミナミネグサレセンチュウの2種です。多犯性で多くの作物に寄生し、植物体内を移動しながら加害します。根菜類では奇形根、黒変、亀裂などで著しい品質低下をもたらします。また、活発に移動するため土壌病害の併発も助長します。

キタネグサレセンチュウ
キタネグサレセンチュウ
表3.代表的なネグサレセンチュウの被害が大きい作物
キタネグサレセンチュウ にんじん、ごぼう、だいこん、レタス、トマト、ばれいしょなど
ミナミネグサレセンチュウ ばれいしょ、かんしょ、さといも、こんにゃくなど
クルミネグサレセンチュウ いちご

≪ネグサレセンチュウの加害様式≫

2期幼虫が作物体内に侵入後、加害しながら移動して脱出し、別の場所から再侵入する、ということを繰り返します。やがて、成虫となり、根の組織内または土壌中に産卵します。
被害痕は、褐変、壊死、奇形を引き起こすこともあります。

加害様式のイメージ図
上図:加害様式のイメージ図

≪ネグサレセンチュウによる被害(果菜類、根菜類、花き)≫

■地上部に目立った症状が現れない作物も多くみられます。
■だいこん肥大部には表面に小さい白点~褐点が形成されます。
■ネグサレセンチュウの名の通り、被害が進むと根が病害の様に腐敗した症状が見られます。

いちご
いちご
きく
きく
だいこん
だいこん
にんじん
にんじん

シストセンチュウの生態と加害様式

シストセンチュウ類(Heterodera spp.)の中で農業上問題となる主要種はジャガイモシストセンチュウ、ダイズシストセンチュウ、クローバーシストセンチュウなどです。寄生植物は限定されますが、増殖率が高くセンチュウの中でも進化したグループと考えられています。雌成虫は体内に卵を充満させ、自らの体を卵のう(シスト)として次世代を繁殖させます。

ダイズシストセンチュウ雄
ダイズシストセンチュウ雄
ダイズシストセンチュウ雌(シスト)
ダイズシストセンチュウ雌(シスト)
表4.主なシストセンチュウと加害作物
ジャガイモシストセンチュウ ばれいしょ
ダイズシストセンチュウ だいず、あずき、いんげんまめ
クローバーシストセンチュウ 豆科植物、カーネーション

≪シストセンチュウの生態と加害様式≫

■2期幼虫態で根の根端分裂組織から侵入します。
■だいずでは葉の黄変(萎縮病)、根粒菌の着生減少による収量減少をおこします。
■シストセンチュウのシスト内の卵は寄生作物を栽培しなくても、おおよそ9年間生存できます。

加害様式のイメージ図
上図:加害様式のイメージ図
  1. 褐色のシストで土中で越冬します。
  2. シスト内の卵では1期幼虫に発育します。
  3. 孵化物質の刺激により2期幼虫がシスト内から土中へと移動します。
  4. 根の表皮下に侵入し、3期、4期幼虫と肥大し根の表面に粒状の線虫が表れ、雌成虫となります。
  5. 雌成虫死亡後、シストを形成します。
ダイズシストセンチュウが根に着生している様子
ダイズシストセンチュウが根に着生している様子

≪ジャガイモシストセンチュウ、ダイズシストセンチュウによる被害≫

■作物の生育不良、草丈の低下、萎凋、茎葉の退緑・黄化などが主な症状です。
■根に寄生した雌成虫を直接肉眼で観察することもできます(最も簡単な診断法)。
■ダイズシストセンチュウは豆類、ジャガイモシストセンチュウはジャガイモにとそれぞれ特定の作物にしか寄生しません。

ばれいしょ
ばれいしょ(ジャガイモ)
だいず
だいず

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ガードホープ液剤

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